パルコ

 

高校生の時改装する前のオンボロの渋谷パルコに1人で映画を観に行った。そこしか観たい映画がやっていなかった。母親には塾へ行くとウソをついた。

 

なんでウソをついたんだろう今は忘れてしまった。多分そこまで行って観たいのは何の映画なのかを深く聞かれるのが嫌だったのかもしれない、ヤクザの抗争の映画だったから。それも相まってかひたすらに後ろめたさを感じていたことだけ、覚えてる。

 

渋谷には当時あまり行ったことが無かったしとても怖かったので武装のつもりで当時の一張羅、赤い古着のチェックのロングワンピースで出掛けた。ハチ公の前を通ってイチマルキューに見下ろされ、地図を見ながら坂を少し登った。顔を見上げると、心なしか天気すら曇って見えるようなくすんだ白い巨大な建物が現れた。廃墟だと思った。後ろめたさが故、さらに強くそのおどろおどろしさを感じた。古くて暗いエレベーターに乗って、映画館のフロアまで鞄の紐を握りしめて小さくなっていた。

 

エレベーターを降りると、古くて赤い絨毯が広がっていた。歩くと少し靴が沈んだ。映画のチケットを買って、席についた。ポップコーンは買わなかった。階段状になっていない映画館は初めてだったのでどこに座るかとても迷って前から3番目くらいのところにすっかり怯えてるのに精一杯すました顔をして座った。他の客は10人くらいしかいなかった。

 

最初から女性の服が刃物で裂かれた。アァ、来なければ良かった。そう思ったのをはっきり覚えている。でもストーリーが進んで行くにつれていつしか周りも気にせず笑っている自分がいた。最後のエンドロールをニヤニヤしながら観た。映画が終わって古い赤い絨毯を通ってエレベーターに乗って、パルコを出る頃には後ろめたさなどすっかり忘れていた。AIか誰かが歌っていた覚えたての主題歌を何回も何回も反芻しながら小田急線に乗って帰った。

 

パルコは真新しくピカピカになった。もうあの頃のパルコとあの頃の私とは会えないんだと思うと少し寂しいような気がした。流し流され思えば遠くへ来たもんだ。

 

 

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