明日があるさ

 

1週間かけて大事に大事に食べていたピクルスを、うっかり手を滑らせて容器ごと床に真っ逆さまにぶちまけた。別のことを考えていたからだろうか、一体そんなに何を考えていたんだろうか、もうそんなことは忘れてしまった。ドラマなどで見る、決定的瞬間のスローモーションなどはなく、「ヒューっ、バシャーン」一瞬にしてそれは起こった。

 

いくら床を拭いても匂いが取れない気がする。一瞬の出来事がトラウマみたいになって、記憶として鼻に強く匂いが残っているんだろうか。気持ちよく浸かっていたのに急に落とされた挙句に捨てられたピクルスの怨念だろうか。とにかく、ひどく落胆した。

 

買い物に出たりコンビニをふらついたり窓を開けたり閉めたりテレビを観たり思いつく限り忘却に努めたけれど、どうにもどんよりしてしまった。たかがピクルス、されどピクルス、ああもうなんかいやだ。ソファーに大の字になっていた。

 

さっきやっぱり開けた窓からオジサンの声がした。自転車に乗って「あし〜たがある♪」と妙に耳に残る不安定な音程のデカい声で歌いながら通り過ぎて行った。オイオイ、ピクルスをぶちまけた私のこと見てたのか?随分と出来過ぎた話だな。

 

坂本九でもウルフルズでも窓の外の音痴なオジサンでも、そんなことはどうでもいい。明日が、あるさ。

 

 

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