実家は、住んでいたときには全く気が付かなかったが、色んな匂いがする。土の匂い、草の匂い、トイレの匂い、洗濯物の匂い、料理の匂い、部屋の匂い。
「元気だったか?」「うん、元気だった。」
会話をほとんどしてこなかった父だが、私が帰ってきたらビールでも飲もうかと言っていたそうだ。直接言わない辺りが変わっていない。
自転車をとばしながら大声で歌った、長い長い駅までの道。窓を開けると畑の土が風に飛んできて床中がザラザラになる、せまい家。幾千回と喧嘩して、家を追い出されたこともあった口うるさい両親。貸したのりの蓋を割って返す、すぐにプリプリと怒って機嫌を悪くする妹。
目と鼻の先な街だけどあの日飛び出したあの街と君が正しかったのにね。